【パリ協定とは?】気候変動対策の重要な枠組みをわかりやすく解説

パリ協定とは

2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定は、気候変動対策や脱炭素化推進にとって非常に重要な枠組みです。

しかし、実際にパリ協定がどのようなものかを知る方は多くありません。そこで今回はパリ協定に関する知識を網羅的に解説し、企業としてどのように対応することが最善なのかを具体的にご紹介します。

パリ協定が採択されたCOP21とは

パリ協定が採択されたCOP21とは

パリ協定はCOP21にて採択された国際的な取り組みです。ここではCOPについて簡単に解説していきます。

そもそもCOPとは

COPとは「Conference of Parties(国連気候変動枠組条約締約国会議)」の略です。1995年に第一回目が開催され2022年度には27回目を迎えています。COPでは、温室効果ガス削減のための国際的な枠組みについて、政府関係者だけではなく産業界・環境保護団体・研究者等も参加し、ディスカッションが行われます。

パリで開催されたCOP21

OP21は、2015年11月30日から12月13日までフランス・パリで開催されました。パリ会議と呼ばれることもあります。COP21にて採択されたパリ協定は、1997年のCOP3で採択された京都議定書の後継となるものです。京都議定書とは1997年に京都市で開かれたCOP3注で採択された国際的な取り決めです。

京都議定書においては、先進国の各国がCO2をはじめとした温室効果ガスを将来的にどの程度削減するかが決められました。また、森林によるCO2吸収量を活用することが認められたのも京都議定書からです。

パリ協定ではさらに、2020年以降の気候変動問題に関する重要な枠組みが決められ、特に温暖化対策について世界が取り組むべき指針が示されました。COPというグローバルな会合において採択されたパリ協定は、まさに歴史的な合意の枠組みと言えるでしょう。

パリ協定が策定された背景

パリ協定が採択された背景には、温室効果ガス排出による地球温暖化の加速とそれに伴う気候変動のリスクが挙げられます。気候変動のリスク上昇の危険性について詳しく解説します。

気候変動リスクの上昇

世界の平均気温

引用:気象庁「世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2022年)」

気象庁により2022年の世界の平均気温の基準値は(1991年から2020年までの30年間の平均値)、1891年に統計を開始してから6番目に高い値となったことが報告されました。さらに、世界の年平均気温は100年あたり0.74℃の割合で上昇していることがわかっています。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による第5次評価報告書では、CO2の累積排出量と世界の平均気温の上昇は、ほぼ比例関係にあることも伝えられています。もし世界の平均気温が、いまより2℃上昇したら、人間が地球上で生活していくことは困難と言われており、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えることは喫緊の課題です。

長期的な大幅な温室効果ガスの排出削減と、今世紀末までにCO2をはじめとした温室効果ガスの排出を0にするためにも、COP21で策定されたパリ協定の意義はたいへん大きいと言えます。

パリ協定の特徴と重要性

パリ協定の特徴と重要性

ここからはパリ協定の特徴と重要性を詳しく解説していきます。

パリ協定の特徴

パリ協定の最大の特徴は、「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」という、温室効果ガス削減に向けた取り組みをルール化したことが挙げられます。COPに加盟する 196カ国全てが目標達成のために、2023年以降、温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年毎に提出・更新することが義務づけられました。

パリ協定の重要性

上記のような経緯から、パリ協定は歴史的な合意と言われています。その重要性を3つの視点から解説します。

  1. 世界共通の長期目標

パリ協定で長期目標が設定されたことは非常に重要と言えます。なぜなら国際社会が長期にわたって、気候変動問題に取り組んでいくための目標が明確化されたと言えるからです。時間をかけて化石燃料依存から脱却することや、気候変動に対する適応能力を向上させる必要があることも盛り込まれています。

産業革命以前に比べて世界的な平均気温上昇を2℃より低く保ち、なおかつ1.5℃に抑える努力を行うことは非常に困難な道と言えます。しかし、明確な長期目標を持つことで国際社会の意識変革を促していくことが可能です。

  1. 持続的な取り組みが可能な制度

パリ協定では、削減に対する取り組みだけではなく、気候変動に対する適応や損害、イノベーション開発、そのために必要な資金についてなど、あらゆる取り組みへの明快性の確保まで規定されています。さらにこれまでのように各国の取り組みが終了するたびに、新たな枠組みをどのようなものにするかの交渉をせずに、持続的な活動を行うための仕組みが確立されました。

  1. 先進国と開発途上国との差異への配慮

先進国と途上国では温室効果ガス削減対策において、どうしても差異が出てきます。単純に二分するのではなく、それぞれの国の事情に違いがあることを認めつつ、排出削減や行動の透明性の確保を求めています。途上国に対しては気候変動対策をとりつつ、取組レベルを上げていくことを促し、先進国には先頭に立って行動することを促しています。さらには将来的な変化にも対応ができるような配慮もなされています。

パリ協定における日本の取り組み

パリ協定日本の取り組み

それではパリ協定において日本はどのような取り組みを行っているのでしょうか。各国の削減目標も併せてご紹介しながら解説していきます。

各国の削減目標

各国の削減目標は次のようになります。参考にご覧ください。

国名2030年までの排出削減目標2050年カーボンニュートラルに向けて
アメリカ50%~52%(2005年比)表明
EU55%以上(1990年比)表明
韓国40%(2018年年比)表明
中国GDP当たりのCO2排出量65%(2005年比)2060年に向けて
インド45%(2005年比)2070年に向けて
日本46%(2013年比)表明

引用:外務省「気候変動 各国の2030年目標」

日本のパリ協定に基づくさまざまな取り組み紹介

ここからはパリ協定に基づいた国内の成長戦略をご紹介していきます。

パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略

日本は2019年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を策定し、国連に提出し、さらに2050 年カーボンニュートラルを基本理念として法定化しました。

そして、温室効果ガス削減の目標達成に留まることなく、ビジネスにおいても脱炭素に向けた取組・投資やイノベーションを加速させることを目指しています。

この戦略では、2050 年カーボンニュートラル実現に向けた長期的なビジョンが分野別に示されています。具体的な方向性を提示することで、我が国における脱炭素市場の投資を拡大していくことが目標です。あわせてイノベーション開発の必要性を掲げ、企業の研究開発・投資も促進していきます。

革新的環境イノベーション戦略

温室効果ガス削減のために、「革新的イノベーション戦略」も掲げられ、次の5分野が重要領域として重点を置いて取り組むことが示されています。それぞれの分野を簡単にご紹介します。

  1. 【非化石エネルギー】電力の供給に加えて水素やカーボンリサイクル等、すべての分野で貢献が可能
  2. 【エネルギーネットワーク】再エネを導入するためには、電力系統ネットワークの調整、需給バランスの最適化がポイントとなる
  3. 【水素】再エネ活用やCCSの活用により得られるCO2フリー水素を、運輸部門及び産業部門の化石代替エネルギーとして利用する。
  4. 【カーボンリサイクル及びCCUS】CO2を資源として再利用や、化石エネルギーとCO2の回収・貯留の組合せを行うCCUSの開発を行う
  5. 【ゼロエミ農林水産業】農林水産分野での温室効果ガス削減は、生態系利用により削減効果が非常に高い可能性がある

二国間クレジット制度

二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism以下JCM)とは、途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を双方で分割する制度です。日本ではJCMに署名した16ヵ国が一堂に会する「第3回 JCM パートナー国会合」を開催し、JCM の進捗を歓迎し、引き続き協力してJCM を実施していくことを表明しました。また、日本を含む18ヵ国が国際的な市場メカニズムの活用について協力していく意思を示す「炭素市場に関する閣僚宣言」にも加わっています。

パリ協定によるビジネスへの影響は?

パリ協定は世界のビジネスにも大きな影響を与えています。企業としてはどのような取り組みを行うことでパリ協定に貢献できるのでしょうか。

ここでは次の3つの視点から、企業が取り組むべき内容を解説していきます。

低排出型社会を目指すために

CO2をメインとする温室効果ガス排出が地球温暖化を促し、気温上昇を招いていることは前述したとおりです。経済界がこれまでの大量生産大量消費を改めない限り、温室効果ガスの排出を抑制することは、非常に困難と言わざるを得ません。企業は温室効果ガス低排出型の社会の構築を目指し、資源活用の在り方や再生可能エネルギーの使用などに、積極的に取り組む必要があります。

企業はLCAによる温室効果ガスの算定が重要

企業は自らの温室効果ガス排出量を把握することで、さまざまな対策を講じることが可能です。そのためにはLCA(ライフサイクルアセスメント)による温室効果ガス排出量の算定が重要となります。LCAとは原材料の生産から輸送・組み立て・使用・リサイクルまでの一連の流れで環境負荷を評価するための手法です。

SBTやRE100の取得

パリ協定への貢献はSBTの取得や、RE100 などの国際的な環境イニシアチブに参加することでも可能です。それぞれがどのようなものなのかを解説します。

SBT

SBTとは、企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標設定のひとつで、2015年のパリ協定で誕生しました。SBTとは「Science Based Targets」の略であり「科学と整合した目標設定」や「科学的根拠に基づいた目標設定」という意味があります。

SBTの目標は「産業革命以降の気温上昇を、2℃未満もしくは1.5℃未満に抑える」というパリ協定に整合したものです。企業は、これらの目標に準じた温室効果ガスの排出削減目標を定めなくてはいけません。また5〜15年先の長期的な目線での目標を定めることも特徴と言えます。

RE100

RE100 は100% 再生可能エネルギーにより、生産された電力を使用する企業を結集する国際的な再エネ促進のためのイニシアチブです。世界の多くの企業が参加し、結集することで、政策立案者や電力事業者および投資家に対して危機意識を植え付けることが目標です。ITから自動車業界までフォーチュン・グローバル500 企業を含む多様な分野から企業が参加しています。日本からは、「ソニー株式会社」や「富士フイルムホールディングス株式会社」等、多くのグローバル企業が参画しており、2023年6月時点では80社に到達しています。

まとめ

パリ協定まとめ

パリ協定策定から国際社会の脱炭素化への流れは大きく動き始めました。特にグローバル企業はパリ協定を基準に活動を行っていることも多いため、企業としてパリ協定に沿った活動を行うことはたいへん重要と言えます。

本記事でパリ協定への知見を深め、脱炭素経営推進を目指す企業担当者さまの一助となりましたら幸いです。

参照:

国際法学会「パリ協定の発効と今後の温暖化対策」

https://jsil.jp/archives/expert/2016-8#:~:text=%E3%83%91%E3%83%AA%E5%8D%94%E5%AE%9A%E3%81%A7%E6%9C%80%E3%82%82%E9%87%8D%E8%A6%81,%E6%80%A7%E3%82%92%E7%A4%BA%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82)

外務省「2020年以降の枠組み:パリ協定」

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html)

「革新的環境イノベーション戦略」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100039227.pdf)

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