以前のブログから随分と間が空きましたが、まあ、そこが個人的なブログのいいところ…ということで、のんびり二回目を綴ります。紹介する絵本に規則性はまるでなく思いついた端から、という感じになることご了承ください。
今回は梅雨の時期に図書館で偶然出会った絵本、ちいさなかみなりの少女がでてくる「かみなりむすめ」をご紹介します。ゴールデンコンビとして有名な斎藤隆介先生と滝平二郎先生の、微笑ましくもちょっと切ない幼い恋物語の絵本です。
「かみなりむすめ」
【作品情報】 作: 斎藤隆介 絵: 滝平二郎 出版社: 岩崎書店 発行:1988年7月15日
村の子たちとセッセッセッがやりたい小さなかみなりむすめ
【あらすじ】
かみなりむすめのおシカは今日も一人で雲のカベに向かってセッセッセッをしています。ほんとうは雲の下にいる人間の子供たちと一緒セッセッセッをしたいのですが、おかあに固く止められています。
なぜなら、おシカの頭には、村の子供たちにはない「ツノ」が、ちょんちょこりんと生えているから。下界におりて村の子供たちに会えば怖がられるに決まっているから。
それでもおシカはあきらめきれず、髪の毛を束ねてツノを隠すとこっそり下界に降りていきます。
やっと下界のみんなとセッセッセッができると喜んだのに、村の女の子たちは見知らぬ子を相手にしてくれなくて…。
悲しくて泣きそうなおシカに茂助だけが「おらが遊んでやる」と、声を掛けます。
梅雨の時期に出会ったときめき絵本
この絵本は梅雨の時期に近くの図書館で紹介されていたのを手に取りました。確か6月ごろのことだったと思います。「梅雨の時期に読む本」というコーナーが設けられており、そこに置かれていました。
「へぇ、梅雨の時期に読む絵本かあ。どんなお話だろう。『モチモチの木』の作者さんだな」と、手に取って表紙のかみなりむすめおシカの可愛さに胸打たれたのを覚えています。個人的に滝平二郎先生の作風は、人間の野太さが持つ生きる力の美しさを大胆な切り絵にしているのが大きな魅力と思っています。
ところがおシカには、どちらかというと淡く優しく、まさに幼い少女にしか感じることのできない無垢な可愛らしさを感じました。陳腐な言い方をすると「守ってあげたい」と思ってしまったほど。村の女の子たちに「あそぶのやんだぁ」と、言われて涙目になり着物の裾をつかんでいるシーンではぎゅっと抱きしめたくなります。
村の子どもたちの中でただ一人の男の子茂助は、きっとそんな「守ってあげたい」可愛らしさを持つおシカ強くに惹かれ声をかけてあげたのでしょう。
茂助がおシカをかばいながら雨の中を走るシーンにときめきながら、そう深く納得するのです。
作者は「モチモチの木」のゴールデンコンビ
滝平二郎先生と斎藤隆介先生のゴールデンコンビでは「モチモチの木」があまりにも有名で、日本人なら知らない人はいませんね。しかし、実はほかにもたくさんの美しい絵本をお二人で出されています。そのどれもが叙情的な美しさをたたえながら、私たちの生きる世界の過酷さを真摯に見つめて描かれていることに、いつも感嘆の念を抱きます。(ベロ出しチョンマを読んだ時の衝撃は忘れられません)
ここではお二人の経歴を簡単に紹介します。
斎藤隆介先生
文学者である斎藤隆介先生は、秋田弁による民話のような創作を発表しているのでその土地の出身かと思われがちですが、実は東京都出身です。北海道の新聞記者をした後に、秋田魁新聞社会部デスクとして働いていたそうなので、その時期の体験が作風に大いに影響しているのかもしれません。
1968年に第17回小学館文学賞「ベロ出しチョンマ」、1987年第10回絵本にっぽん賞「ソメコとオニ」など、数々の賞を受賞し、優れた児童文学を多く発表しています。切り絵画家の滝平先生とコンビを組み、たくさんの素晴らしい絵本を出版されましたが、残念なことに滝平先生よりかなりお若い年で亡くなられています。
滝平二郎先生
滝平先生は茨城県出身の日本を代表する切り絵画家です。初期のころは版画家として活動していましたが、1969年に開始された『朝日新聞』日曜版生活カレンダーの連載をきっかけとして、切り絵画家として本格的に活動を開始します。
日本の古き良きふるさとを感じさせる美しい切り絵の連載は読者に大好評で、9年近くも続きました。斎藤先生とのコンビでは「八郎」「花さき山」など今でも読み継がれている多くのロングセラー絵本を生み出しています。2009年に亡くなられていますが、ぬくもり溢れる切り絵作品はいまだに多くの人に愛されています。
「かみなりむすめ」は、斎藤隆介先生が亡くなられた後に、斎藤作品の絵画化に情熱を傾けていた滝平先生の手により絵本化されました。それまでは「斎藤隆介文学集」にしか掲載されておらず、滝平先生の見事な切り絵により、より魅力的な作品となってこの世に出されたことは、一絵本ファンとして本当に幸運なことだと感じます。
胸が「あまぁく」なる物語
人々の生きる過酷さの中にある美しさを、切り絵の中に表現するお二人。でも、「かみなりむすめ」は、幼い二人の恋心をほんのりと感じさせる切ない物語です。
どのような過酷な暮らしの中でもこのように切なく甘く、そして優しい時間が存在する。私は滝平先生と斎藤先生が「かみなりむすめ」の物語から、そう語りかけてくれているようでとても嬉しくなります。
わたしにとっては、どんな甘い恋物語を読むよりも「かみなりむすめ」の二人がセッセッセッをしているシーンに、じんわりとしたときめきを感じます。まさに本文にあるように胸が「あまぁく」なるのです。
梅雨の時期が来たら読み返したくなる大切な絵本の一つです。
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